Webマーケティングの場など様々なビジネスシーンで使われるようになったKGIとKPIという用語ですが、これは元々経営戦略の立案や実行評価の際に用いられたものであり、理論の提唱者によって様々なアルファベット3文字の用語と概念が存在するため、厳密な意味がわかりにくくなっています。
そのため現場では、KGIが大きな最終目標で、KPIがそのための施策でしょ?というざっくりとした概念で運用されることが多いかもしれません。
ですがこの目標に向かうためにプロセスを設定していく際のロジカルな考え方は、あらゆる事象に応用可能なので、改めてその用語の意味と具体例と合わせて詳しく見てみたいと思います。
KGIとは?
用語の意味
「Key Goal Indicator(重要目標達成指標)」の頭文字をとったものがKGIで、企業組織やプロジェクトの最終ゴールを数値化したものです。
組織全体としては「売上高」や「経常利益」などで設定されることが多いですが、チームや部署単位では「新規契約件数」「問い合わせ件数」「PV数」「ダウンロード数」「会員登録数」などを設定する場合もあります。
いずれもいつまでかの「期間」と、どれだけかの「数値」が必要となります。
そしてこのKGIを実現するために、必要なプロセスが適切に実行されているか計測するための指標がKPIです。
具体例
ダイエットでいうと「夏までに痩せる」ではKGIとして不十分なので、「7月末までに10kg痩せる」のように数値化する必要があります。
ただしこのKGIの数値設定は、適切で実現可能であることが重要です。
例えば「夏までに」というのが、8月のお盆休みに予定している海外旅行で水着を着た時に恥ずかしい思いをしないためだったとしましょう。
期間を「7月末まで」と設定してしまうと、実際の旅行までの2週間ほどでリバウンドしてしまうかもしれません。
はたまた旅行前ギリギリまでダイエットしていると体調を崩してしまうかもしれません。
「10kg痩せる」という目標も、現在の体重が50kgの人と100kgの人とでは困難度も結果の見た目も違います。
また一気に10kg痩せることに成功しても、筋肉がないタルタルに弛んだ体だと、恥ずかしい思いをしてしまうかもしれません。
そこで一旦「旅行期間の8月15日から20日まで体重45kgをキープする」とまで具体化してみます。
大きな目標が決まってので、次はそのプロセスであるKPIを考えてみましょう。
KPIとは?
用語の意味
「Key Performance Indicator(重要業績評価指標)」の頭文字をとったものがKPIで、企業組織やプロジェクトで設定した最終目標であるKGIを達成するためのプロセスが適切に実行されているか計測するための指標です。
KPIというチェックポイントを問題なく通過していくとKGI達成となるように、KGI構成する要素を1つ1つ分解して設定します。
これには「SMART」と呼ばれる5つの項目、Specific(明確性)、Measurable(計量性)、 Achievable(現実性)、Result-orientec or Relevant(結果指向または関連性)、Time-bound(適時性)が重要となります。
具体例
さきほど設定したダイエットの例から考えてみましょう。
KGIは「旅行期間の8月15日から20日まで、体重45kgをキープする」です。
ではまず現状を把握し、目標達成までにどれほどの数値が必要かを算出します。
現在が7月1日の時点で体重55kgであると仮定すると、まず必要なのは「45日間で体重-10kgのダイエット」となります。
ですが目標はキープすることなので、8月10日の時点のこの数値に達していなければいけません。
そうなると日々減らさないといけない数値は「1日に体重250g」となります。
毎日同じ時間に体重を計測し、前日比-250gが続けば目標は達成されるはずです。
あれ?でもそれどうやって実現するんでしょう?
そこで必要となるのが、KSFです。
KSFとは?
用語の意味
「Key Success Factor(重要成功要因)」の頭文字をとったものがKSFで、KGIを達成するために必要な要因が何かを分析したものです。
「Critical Success Factor(最重要成功要因)」の頭文字をとったCSFも同じ意味で使われます。
これを分析するためには、Customer(市場や顧客)、Competitor(競合他社)、Company(自社)の3つから考える「3C分析」や、Strength(自社の強み)、Weakness(自社の弱み)、Opportunity(機会)、Threa(脅威)の4つから考える「SWOT分析」が有効とされています。
KGIから直接KPIを設定するのではなく、KSFを分析してからKPIを設定することで、より具体的で実現可能な目標を設定することができます。
具体例
引き続きダイエットを例に、KSFを考えてみましょう。
そもそも体重を減らすために必要な要因はなんでしょうか?
まず思い浮かぶものは摂取カロリーを減らすこと、消費カロリーを増やすこと、基礎代謝を上げることなどです。
でもこれだけではまだ具体的にどうしたらいいか見えてこないですね。
摂取カロリーを減らすことに必要な要因は?とKSFをどんどん掘り下げないと、ゴールへの道筋が見えてきません。
そこで必要になる考え方の枠組みが、KPIツリーです。
KPIツリー
用語の意味
KPIツリーの元になっているのはロジックツリーという論理的な思考の手法です。
この手法では1つの事象に対してそれが「なぜ」なのかをリストアップし、そのリストアップされた事柄に対しても「なぜ」を繰り返して、1つの事象を構成する要素を分析します。
これによって問題の根本原因の究明や、アイディア考案が可能となります。
KPIツリーも同様に、大きな目標であるKGIを成功要因となる要素KSFに分解していくのですが、元となるKGIは事象でなく数値なので、KPIツリーの最後にあるものをすべて足すとKGIになります。
この数値化できる要素がKPIで、要因であるだけでまだ数値化できないものがKSFです。
具体例
ここまでの例ではダイエットの目標を立てましたが、その具体的な実現方法が見えてきていません。
そこでKPIツリーの考え方で、成功要因を洗い出してみましょう。
ここで重要なのは、大きさがバラバラの事象を並列に置かないということです。
さきほど挙げた「摂取カロリーを減らす」「消費カロリーを増やす」「基礎代謝を上げる」の3つは大きさが違う事象が混ざっていました。
まずは「摂取カロリーを減らす」「消費カロリーを増やす」の2つに大別してから、「基礎代謝を上げる」は「消費カロリーを増やす」の要因として位置付けなけばいけません。
旅行期間の8月15日から20日まで、体重45kgをキープする(KGI)
└ 摂取カロリーを減らす(KSF)
└ 食べる回数を減らす(KSF)
└ 1日3食で間食なしにする(KPI)
└ 食事のカロリー量を減らす(KSF)
└ 1日1500kcal以内にする(KPI)
└ 消費カロリーを増やす(KSF)
└ 基礎代謝量を増やす(KSF)
└ 体脂肪率を30%以下にする(KPI)
└ 運動量を増やす(KSF)
└ 1日100kcalを消費する(KPI)
これがダイエットとして合っているかどうかはわかりません(笑)
1日250gの脂肪を燃焼するために、どのぐらいの強度の運動を何時間しないといけないかは計算で出ると思いますが、それが現実的でないかもしれません。
体脂肪が減っても筋肉が付くと体重が増えてしまう可能性もありますよね。
KGIがそもそも適切であるかは、設定する時点でもっと深く考えなければいけませんでした。
痩せるとはどういうことなのか様々な角度から検証・数値化し、自分の現状の把握と理想の姿の想定だけでなく、自分の身長や生活スタイルから一般的な数値も想定すれば、より実現可能な目標になると思います。
理想が高すぎるのもダメということですね。
ダイエット内容についてこれ以上突き詰めると話が逸れてしまうのでやめにします。
KPIの運用
ここまででKPIが4つできましたが、これらを実際に行うには、日々運用するための具体的行動、施策に落とし込まないといけません。
ダイエットとして正しいかはさておき、行動を当てはめてみましょう。
1日3食で間食なしにする(KPI)
└口が寂しくなったら水を飲む(施策)
1日1500kcal以内にする(KPI)
└毎回の食事のカロリーを記録する(施策)
体脂肪率を30%以下にする(KPI)
└夜に筋トレをする(施策)
1日100kcalを消費する(KPI)
└毎朝30分のジョギングをする(施策)
一旦施策まで落とし込めたら、まずは黙々と運用していきます。
そして一定期間運用した時に、運用上問題がなかったかを確認し、施策内容を見直します。
これがよく言われるPDCAサイクルです。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)を常に繰り返すものです。
施策は、それが効果的であろうという仮説の元に設定されるので、実際に運用してみて改善するのはとても重要です。
今週はKPIが達成できなかったけど、来週はがんばろう!と気持ちだけでなんとかしようとせずに、達成できなかった理由はなんだろうとロジックツリー式に掘り下げて、改善ポイントがないかチェックしてみましょう。
すべてに大切なロジカルシンキング
以上のようなKPI運用の具体例から、目標を設定するとき、その成功要因を探るとき、施策を設定するとき、施策の改善点を探すとき、あらゆる場面で「なぜ」「なに」といった論理的思考が必要なことがおわかりいただけたと思います。
幼いころは自然と物事に対して「なんでだろう」が浮かんでくるものですが、大人になるにつれて「それはそういうもの」「こうあるべき」といった理屈が植え付けられ、次第に先入観や思い込みでしか動けないようになってしまうのが人間の悲しい性です。
まずは普段の生活の何気ない小さな事象から、これってなんでだろうと疑問を持ってみる、その答えを自分で考えてみる、その答えを調べてみるということを繰り返して、幼いころの探求心を思い出してみませんか?